前回「アリス・ベイリーの生涯(その1)」のあらすじ。
アリスが15歳のとき、突如部屋に現れたターバンの男性。彼はアリスに対し「君にはやるべき仕事がある。」と告げ、姿を消す。
大人になったアリスは兵士の保養所で働き、知り合った兵士エバンスと結婚をした。三人の子供に恵まれたが、度重なる夫の暴力により離婚。シングルマザーになった彼女は、幼子を育てながら缶詰工場で朝から晩まで働く。
その頃出会ったのが、同郷イギリス出身の二人の女性。彼女らが通う神智学の集会に出向いたことで、ターバンの男性との邂逅を果たし、「さらなる出会い」へと運命が導かれていく……。
アリス・ベイリーの生涯(その2)
アリスは神智学を学び始めた。今までの知識や信念とは異なる、神智学が提示する新しい学びに苦闘しながら、アリスのマインドは次第に目覚めていく。
ブラヴァツキー夫人(神智学の祖)の著書、『シークレット・ドクトリン』にも興味を持つが、まだ理解には至らなかった。しかしその勉強に費やした時間は、人生においてもっとも価値ある時間だったとアリスは振り返っている。
シングルマザーの忙しい毎日
アリスの毎日はハードだった。午前四時に起床し、三人の子供達のご飯を作り、六時半には子供たちを隣人の女性に預け、職場であるイワシの缶詰工場へと向かう。
夕方帰宅すると子供達の世話をし、やっとのことで寝かしつけたあとは深夜まで読書をする生活を続けた。そんな中、アリスは神智学ロッジのクラスを受け持つことになる。
当時彼女が確信していたことは、「キリストが存在するということ」、「内的な接触があるということ」の二つだけであった。
しかし神智学ロッジで働いているうちに、「三つの基本的アイデア」がアリスの霊的生活にプログラミングされる。
三つの基本的アイデア
- 大計画の存在
- ハイラーキーの存在
- 再生誕の法則と、原因結果の法則
邂逅
1917年、司祭が元夫エバンスの給料から、毎月一定額をアリスが受け取れるように手配してくれた。これによって彼女は缶詰工場を辞めることが可能となった。アリスは神智学協会本部があるアメリカ(ハリウッド)へ引っ越し、協会敷地内のカフェで働いた。
1年後の1918年、神智学協会の聖堂に初めて入ったときのことだ。アリスはキリストや大師方が描かれている絵を見て驚愕することになる。なぜなら、15歳のとき勝手に部屋に入ってきたあの「ターバンの男性」が描かれていたからだ。
その男性の名は、
クートフーミ大師ッ!!
近代神智学の偉大な霊的指導者クートフーミ大師は、絵の中からアリスの方を優しい眼差しで見つめていた。
最高の離婚
一方、以前より準備を進めていた離婚裁判が行われていた。裁判はアリスに有利な証言も多く、簡単に決着がついた。彼女にとって結婚生活は失敗に終わったが、意識の成長にとっては必要なものであった。
かつては、自分を世界の中心に置いて世の中をみていたアリス。この結婚生活によって、周囲の人たちの優しさを身にしみて感じ、人類全体が「ひとつ」であることを実感した得難い経験となった。
フォスター・ベイリー
1919年、アリスはフォスター・ベイリーと出会う。日本は大正8年。ドイツではワイマール憲法が公布・施行された年である。
二人は神智学協会での仕事を積極的にこなした。フォスターは神智学協会の米国事務官になり、アリスは地方雑誌の編集長と、地区の委員会の議長を務めるようになっていた。
仕事をこなしていく中で二人は、当時の神智学協会が普遍的な同胞愛を伝えるよりもむしろ、ロッジの増設やメンバー増加に関心をもつ、派閥的なグループへと堕落していることに気がつき始めていた。
ジュワル・クール大師 降臨
1919年11月のことだ。やんちゃ娘たちを学校に送り出し、近所にある丘の上でアリスはひとり考え事にふけっていた。すると突然、彼女の思考が音楽となって空に響き渡り、「謎の声」が聴こえてきた。
Ru〜〜Ru〜〜♪
RuRuRuRu〜Ru〜〜Ru〜〜〜〜〜〜♪
アリス:「はうあ!?」
ジュワル・クール大師:「私の名はジュワル・クール(Djwhal Khul)。DKと呼んでくれたまえ。できれば “大師” もつけてくれよぉ。」
アリス:「ジュワル・クール…大師。DK…。」
ジュワル・クール大師:「やぶからぼうに申し訳ないが、人類のために君にどうしても書いてほしい本がある。どうだ、やらないか?」
アリス:「…や、やりません!私は呪われてもいないし、霊能者でもない!そんなアブナイことに首を突っ込みたくありません!」
ジュワル・クール大師:「フッ、そうくると思ったぜぇ。懸命な者は即座に判断したりはしないものさ。しかしお嬢さん、君には優れたテレパシー能力があるんだ。そしてこれは、いかなる低位サイキックとも無関係なんだよぉ!」
アリス:「テレパシーて!そんな怪しいことに関わりたくないわ。サイキックもタイキックも、私には全く興味がないッ!」
ジュワル・クール大師:「おっとっと、威勢のいいこった。ほんなら少し、考える時間を与えよう。」
アリス:「はい?(話聞いてる?)」
ジュワル・クール大師:「3週間よぉぉおく考えることだ。そんでもって、自分が本当は何をしたいのか、見つけるといいだろう。じゃ!」
アリス:「ちょ、待てよ!!」
DK、再び。
日常に忙殺され、ジュワル・クール(DK)大師との約束などすっかり忘れていた3週間後の夜。子供たちを寝かしつけ、アリスが居間の椅子でくつろいでいた時のことだ。
「あの声」がまた、語りかけてきた。
Ru〜〜Ru〜〜♪
ジュワル・クール大師:「えーっと例の件、前向きに考えてくれた?」
アリス:「いやいや。前にもお伝えした通り、普通にムリでございます。」
ジュワル・クール大師:「えっ。あ、そう…。よし、じゃあもう2週間だけ!よぉぉぉぉぉおおっく考えてみて。また来るからよぉ!」
アリス:「ちょま…ッ」
彼ったら、2度も断ってるのに、そんなに、私のこと…。
アリスはこの頃から、「そこまで言うなら、ちょっと2〜3週間お試しでやってみようかしらん?」と考えるようになっていた。
アリスがその著書『イニシエーション』の第1章を書き取ったのは、それから数週間後のことである。
参考・引用
- 土方三羊著『アリス・ベイリー入門 エソテリシズムとは何か』(2006) アルテ
- アリス・ベイリー著『未完の自叙伝』AABライブラリー