(追記あり)まるで絵のある哲学書?『ちひろさん』という漫画

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ちひろさん

朝炊いたご飯にカビが生えそうな蒸し暑いこんな夜、漫画でもどうでしょう?

漫画なんて子供が見るもの。漫画なんてただの娯楽。漫画なんて暇つぶしに読むもの。漫画なんてブックオフで立ち読みで済ますもの。漫画なんてマンガなんてまんがなんて…。

僕はふつうに漫画も読みます。難しい本を読むときも「マンガでわかる」系から入り、ざっくり流れをつかんでから本格的な読書に入ることも多いです。漫画は日本の文化で、良い作品がたくさんあります。今回はつい最近みつけた、個人的大ヒット漫画『ちひろさん』を紹介します。

ちひろさん


安田弘之(著)ちひろさん 1 (A.L.C. DX)

Amazonプライム無料特典の電子書籍(Kindle)で、たまたま目にした『ちひろさん』という漫画。

なんとなく気になって読んでみたんですよね。そしたらもう、完全に「当たり」でした。気がつけば、続きをみたくて7巻まで大人買い。うーんAmazonめ。ジェフ・ベゾスめ!

最近の漫画はデジタルが主流のせいか、背景とかもサクッとつくってる感が伝わる作品も多いですが、この安田弘之さんの描く絵は一本一本の線が愛情込めて丁寧に描かれているのがわかります。

「あー、この人絶対楽しんで描いてるな!」それがもう、細部からビシバシ伝わってくるんです。

主人公は「ちひろ」という、元風俗嬢の女性。引退した彼女が選んだ勤め先は、なんとお弁当屋さん。海辺の小さな弁当屋で働くちひろを中心に、従業員や店長、お客さんとの日常が描かれています。

ちひろは物事に動じない、強くて知的な女性です。しかし反面、子供のように無邪気でもあり、どこか哀しく、寂しく、その目からは幽霊のような不気味さも感じます。

とても人間的なのにも関わらず、矛盾するように人間らしさを感じないときもある。つかみどころがないのです。ちひろは周りの思惑には左右されませんが、自然の「なりゆき」に空気のように溶け込み、その瞬間を味わい尽くします。

そんなちひろの元には、悩みを抱えた人たちがあつまります。弁当を待っている間は、ちょっとした人生相談タイム。依存させない絶妙な距離感で、その笑顔と言葉と存在で進むべき道を爽やかに示すのです。

『ちひろさん』には、弱きものが強く生きるヒントが詰まっています。

この漫画からは「プロットの完璧さ」や「汗のにおい」は感じられせん。しかし、絵、スクリーントーン、行間、背景、すべてにおいて過不足がなく、リアルな物語として完成している不思議な作品です。

ちひろ


安田弘之(著)ちひろ 上

『ちひろさん』の、風俗嬢時代の話。こちらの方が先に描かれた作品です。さすがに現役の頃の話なので、弁当屋の「ちひろさん」より内容は大人向けです。

「ちひろ」は源氏名です。なぜちひろが「ちひろ」を名乗っているのか、下巻の最終話にはその鍵となる出会いが明かされています。

順番としては、先に『ちひろさん』を読んだ方がより作品を楽しめるような気もします。「いま出会って、過去も知りたくなる」パターンが個人的に好きですね。

まとめ

よく読書は「なんのために読むのか」という、目的意識を持って読めと言われます。

しかし、そこは漫画。この作品からは「何かを得よう」などという余計なことは考えず、おやつでも食べながら友人と語らうように楽しむことをおすすめします。そうすると、ふっと肩の力が抜けたところに、ストーンと腹に落ちる「何か」があるかもしれません。

追記(2018/07/03)

「ちひろさん」降臨!作者の安田弘之先生から、リプライをいただきました♪

「伝わってるという手ごたえに元気の出る書評でした。ありがとうございます! ^ ^」

なんという謙虚ッッ!

「‥‥マンガ描いててよかった〜と感じる瞬間です。」

なんというマンガ愛ッッ!!!

ツイッターでの小さなやりとりからも伝わります。ちひろさんという作品の「親」は、作中のちひろさんの「親」とちがってとても温かい人柄であること。作者と作品のイメージが合致するって、すごく気持ちいい。

安田弘之先生、ありがとうございました。『ちひろさん』8巻、心から楽しみにしております!

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