人は人を「ありのまま」見ることは難しいといいます。
誰もが濃淡の差はあれど色のついたメガネを通して、人や現象を判断しています。その視線の先には他人はもちろん、自分自身も立っていることでしょう。
中には色眼鏡の上に老眼鏡を重ねて、さらにカラコンまでつけて現実がまったく違う色や歪んだ輪郭で認識している人も少なくないと思います。
僕なんかは、そこに丹下段平(または愚地独歩)のような眼帯も装着して、おまけにおでこの上にメガネを乗せたままメガネメガネ…と探しているようなタイプです。
さて秘教では、現実を歪ませて見せる霧のようなものを「グラマー」と呼んでいます。
グラマーとは
グラマーは霞や霧に譬えられ、その中を熱誠家はさまよい、見たり触れたりしたものすべてが歪められる。それが生命の真の姿を明瞭に見るのを妨げ、周囲の状況をありのままに見るのを阻んでいる。……
彼は常に霧の中を歩き、何もそのありのままの姿を見ることはできない。彼は外観に騙され、その外観が覆い隠しているものを忘れてしまう。
各々の人間が起こした放射するアストラル的な反応が常にその人を取り囲み、彼はその霞と霧を通して歪められた世界を見ているのである。
アリス・ベイリー『グラマー』p.48
先日の講座の中で、神尾先生が電車内の広告で見かけたという『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』という本を、グラマーを知る格好の資料としてさらっと紹介されていました。
人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている(amazon)
その後、本を読まれた神尾先生の感想は「内容はしっかりしていて、とても面白い。買ってもよいと思います。ただ残念ながら、その活用方法の提案がブラック」とのこと。
で、僕も早速買って読んでみました。本の装丁から、ぽっと出の若いブロガーかユーチューバーがノリで書いた軽〜い本なのかなと分厚い色眼鏡かけて読んでみたら全然違った。見事に期待を裏切られました。
複数の企業を創業し、そのうちひとつは上場させたという著者が書いた、語彙や表現にも知性漂うしっかりした内容の本でした。って、きっとこれもハロー効果であり、著者が提唱する「錯覚資産」かもしれないけど、かなり面白い本なのは間違いないです。
本書では、他人があなたに抱く都合の良い思考の錯覚を「錯覚資産」と呼んでいます。そしてこの「錯覚資産」こそ、「グラマー」のひとつの形態と見ることができます。
本文をちょっと見てみましょう。
グラマーと錯覚資産
錯覚資産は、卑怯な武器だ。
それをこの地上からなくすことができたら、ずいぶんとフェアで風通しのいい世界になるのではないかと思う。……
思考の錯覚は自覚できない。だから、錯覚資産は、目に見えない武器となる。
「レーダーに映らない」という特性が、ステルス戦闘機を極めて優秀な兵器としているように、
「自覚できない」という特性が、錯覚資産を、極めて優秀な武器にしているのだ。
p.88
この「錯覚資産」を、「グラマー」に置き換えて読んでみる。
- グラマーは、卑怯な武器だ
- グラマーは、目に見えない武器となる
- 「自覚できない」という特性が、グラマーを、極めて優秀な武器にしている
続けて見てみましょう。
だから、この世界では、誰もが錯覚資産という武器を駆使して、万人の万人に対する闘争を繰り広げている。
もちろん、自分だけは、できるだけ錯覚資産を使わずに生きていくのものいい。
しかし、それをするなら、人生がうまくいかなくなることを覚悟しなければならない。……
誰もが錯覚資産という悪魔の力を駆使しているこの世界では、錯覚資産なしには、自分の人生の活路を切り開くことはできないのだ。
p.90
- 誰もがグラマーという武器を駆使して、万人の万人に対する闘争を繰り広げている
- もちろん、自分だけは、できるだけグラマーを使わずに生きていくのもいい
- 誰もがグラマーという悪魔の力を駆使しているこの世界では、グラマーなしには、自分の人生の活路を切り開くことはできないのだ
どうでしょう。ぴったりハマる感じがしますね。
この本では人生成功するために「グラマーを武器として使うこと」を推奨していて、「YOU、グラマー武装しないと世知辛い現代社会で戦ってなんていけないから悪魔の力を使っちゃいなよ!」と主張している。
一方、秘教の本は反対に、「グラマーを消散させる」のが目的。グラマーの破壊力をわかっていながら、あえて武器を手放す生き方です。
個人的な欲求が満たされることに、重きを置いていません。いやむしろ、人生で苦痛を感じている時ほど本当の自分(魂)は喜びを感じているとさえいいます。
Amazonでレビューを見ると評価が真っ二つに分かれているようですが、僕は読んで良かったと思っています。まさに「グラマーを知る上で格好の資料」だったし、グラマーってそういうことなのかってアウトラインが見えてくる気がします。
ただ僕的には、この本を読んで素直に実行する人ばかりが集うようなグラマラスな飲み会には行きたくないっす。霧で前が見えなそう。
参考・引用
人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている(amazon)
ふろむだ(著)ダイヤモンド社; 1版 (2018/8/8)